「噛めないって辛い」お話し2
前回お話しした私の少年時代のポンコツぶりからの脱却のヒントについてお話しします。
チョット長くなりますがご容赦を。
①片山先生と海老フライ
かつて「片山恒夫先生に臨床を聞く会」通称片山セミナーという勉強会がありました。
私も、何度も参加させていただきました。
快晴の日曜日、芦ノ湖畔の箱根セミナーハウスでのランチタイム。
メインメニューは大きな海老フライ。
私たち参加者は、当たり前の様にエビの頭と尻尾を残して
「あ~美味しかった」っと一息していました。
すると、右斜め後方45°から
「出されたものは残さず全部食べんか!!!この無礼者が!」
右耳がワンワン・・・・鳴っています。
隣を見ると、片山先生がエビの頭と尻尾をバリバリ、
何の抵抗もなく噛み砕き、すり潰し、美味しそーに食べています。
「こんな美味しいものを残すとは、何事か!シェフに失礼だ」
一同「・・・・・」
セミナー参加者は歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士と、全て専門家。
ポンコツな私以外は、難なく食べられるだろうと思いきや皆さん苦戦しています。
エビの頭と尻尾、しかも大振り2尾が相手では、丸呑みして誤魔化すこともできません。
GHQに単身乗り込んだ明治生まれの猛者の前では言い訳不可。
②入れ歯の常識・非常識
エビとの格闘が終わった頃
片山;「籾山くん、私の入れ歯にぶら下がって、外してみなさい。」
私;「はっ?今何とおっしゃいました???」
片山;「だから、黙って言われた通りに、外してみなさい」
いくら臨床経験の浅い私でも、入れ歯のはずし方くらいは心得ています。
が・・・どうやっても外れません。
文字通り全体重をかけて、ぶら下がってみても外れません。
すると、片山先生が軽くほっぺたを膨らませ、ポイッと入れ歯を外して見せてくれました。
食後に入れ歯を見せられる方もたまったものではありませんが、そこは、一応専門家の端くれ、ジックリ観察してみると、最新の歯科医学の常識からは「ありえへん」入れ歯でした。
(流石に恩師の入れ歯の写真を掲載することは控えますが)
片山先生の入れ歯は、ご自分で即時重合レジン(常温で固まるプラスチック)を、ご自身で加工して、長年ツギハギ・修理・改造しながら使い続けてきた入れ歯でした。
最新、最善、最高と教育されてきた事とは正反対どころか
「やってはいけない」と言われた事ばかり。
「こんなので・・・・・」髪の毛1本をピシッと噛み切れるのに、私は天敵のニラを相手に四苦八苦・・・。
③入れ歯装着がスタート
気付いたことは、
大学や研修会で学んできたのは、完成するまでの製作過程で、患者さんに装着する時がゴール。
一方、エビに完勝した、ツギハギ入れ歯には
「入れ歯は装着した時がスタートだよ」という原則、
美味しく楽しく食事を楽しむための工夫、
加齢に合わせて変化する人工臓器の仕上げ方が示されていました。
「解剖学的形態」といって、生えて来た時そのままの歯の形を「限界運動」といって、前後左右にギリギリすり合わせる下アゴの動きに合わせて入れ歯やブリッジを作ること(=常識)は、「年齢や生活習慣・食習慣等に合っていないんだな~」です。
スタートの設定が間違っていた様です。
片山先生の名誉の為に記しておきますが、先生は、元々の歯並び・噛み合わせが悪く、学生時代に結核を長患いしました。
徴兵検査は丙種不合格という、弱さを背負っていた事で、歯を失う事となってしまいました。
決して不摂生が原因というわけではありません。
歯科医療のゴールは全身健康に設定せよ、と教えていただきました。
ただ、最期までタバコは止めず
「こんな年寄りから、最後の楽しみのタバコを取り上げるとは人情に欠けるのう、君たちは。」
と、類稀な老人力の持ち主でもありました。